釈尊はこうお聞きになりました。
「守籠那(ソーナ)よ。あなたは家にいたころ、
たいへん琴を弾くのが上手であったそうですが、
そうですか。」
守籠那が、そのとおりでございますとお答え
しますと、釈尊は、
「それならば、よく知っているでしょう。琴の糸の
張りかたが強過ぎたら、いい音がでますか。」
と、おたずねになります。
守籠那は、いいえとお答えします。
すると釈尊は重ねてお聞きになります。
「では、琴の糸があまりにも弱く張られていたら、
言い音がでますか。」
守籠那は、やはりいいえとお答えしました。
釈尊はつぎに、
「それでは、琴の糸がちょうどほどよく張られて
いたら、どうです。いい音が出ますか。」
と、お聞きになりましたので、守籠那は、はい、
いい音が出ます---とお答えしました。
そこで釈尊は、つぎのようにお教えになりました。
「守籠那よ。修行もそれとおんなじことです。
精進にかたよると、心が緊張しすぎて静かでは
ありません。
精進が緩やかすぎると、懈怠におもむくのです。
ですから、守籠那よ。平等の精進に住し、
諸根の平等を守りなさい。そして、
『中』の相をとるように心がけることです。」
と、お教えになりました。
糸の締めぐあいをその一点に合わせれば、
メロディーが調ってくるのです。そういう状態を
「よく調和のとれた」状態というわけです。